August 0782001

 少女期やラムネの瓶に舌吸はれ

                           高倉亜矢子

学校高学年か、中学校低学年くらいの少女を連想した。ちょっと悪戯っぽい感じの女の子だ。ラムネを飲むのにもいささか飽きてきて、玉を舌先で触って遊んでいるうちに、何かの拍子でひゅっと「吸はれ」てしまった。それだけのことでしかないが、それだけのことだから「少女期」を象徴する出来事として受け止められるのだ。私の観察するところでは、少年に比べると、案外に少女はおっちょこちょいである。無鉄砲は少年の属性のようなものだが、それとは違い、少女は少年には考えられないようなアクシデントに見舞われたりする。本質的に、おおらかなのかもしれない。少年だったら、まずこんなドジは踏まないだろう。句は、そのあたりのことを言っている。ただ昔の少年として気になったのは、実際にこういうことが起きるという理屈がわからないところだ。ラムネ瓶のなかでは飲料水の発するガス圧が玉を押し上げる仕掛けだから、この場合はほとんど飲んでしまった後で、逆に瓶の中が外気圧に押されていた故に「吸はれ」てしまったのだろうか。……というふうに、とかく少年(男)は理屈っぽい。理屈っぽくない少女だった作者としては、「だって、ホントにそうなっちゃったんだもん」と答えるのだろうな。作者は1971年生まれ。なかなかに良いセンス。「香水に水の匂ひのありにけり」。この句も素敵だ。期待したい。「俳句」(2001年8月号)所載。(清水哲男)




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