August 0582001

 山河古り竹夫人また色香なき

                           山口青邨

あ、わからない。何がって、「竹夫人(ちくふじん)」が。いまや、そういう読者のほうが多いでしょうね。私も見たことがないのでご同様ですが、この夏の季語は、何故かまだ、たいていの現代歳時記に載っています。最も新しい講談社版にも……。倉橋羊村に「こそばゆき季語の一つに竹夫人」があり、艶なる「夫人」の呼称が気にかかります。要するに、竹で編んだ一メートルから一・五メートルくらいの細い筒型の籠(かご)で、寝床で抱いたり、手足をもたせかけて涼をとった物のようです。たしかに、竹はひんやりとしています。その意味では生活の知恵の生んだ道具ではありますが、名前も含めて相当に奇想天外な発想と言えるでしょう。いろいろ調べてはみたのですが、命名の由来はわかりませんでした。用途を考えると、なんとなくわかるような気はしますがね。曲亭馬琴が編纂した『栞草』にも颯爽と登場しており、ただし「似非夫人之職、予為曰青奴(せいぬ)」という苦々しげな文章を引用しているところを見ると、彼もまた「色香なし」と思っていたのでしょうか。「青奴」の他に「竹奴(ちくぬ)」「抱籠(だきかご)」ともあります。掲句は「山河」や「竹夫人」が老いたと言っていますが、つまるところは自分自身が老いてしまったことを慨嘆しているのですね。やれやれ、と。『合本俳句歳時記・新版』(1974・角川書店)所載。(清水哲男)




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