August 0382001

 爪弾く社用で贈るメロンかな

                           守屋明俊

集では、この句の前に「ごきぶりを打ちし靴拭き男秘書」が置かれている。秘書の仕事の一貫として、高級果物店で「社用で贈る」メロンを選っているのだ。なるべく出来のよいものを贈るべく、いくつかのメロンを爪で弾いてみている。もしも不味いものでも届けてしまったら、会社の沽券にかかわるので真剣にならざるを得ない。が、作者はおそらく、いま選んでいるような高価なメロンは口にしたことがないのだろう。ていねいに一つ一つ弾いてはみるものの、本当のところは、どれが良いのかよくわからない。途方に暮れるほどでもないが、失敗は許されないので、気を取り直してまた弾いてみる。サラリーマンだったら、たいていの人が作者の心中は理解できると思う。業務とはいえ、何故俺はここでこんなことをやってんだろうと、一種泣き笑いの状況に放り込まれることがある。そこらへんの心理的に微妙なニュアンスが、「爪弾く」という微妙な仕草を通じているので、よく伝わってくる。漠然としたサラリーマンの哀感を詠んだ句は多いが、掲句は具体的にきっちりと壺をおさえていることで出色の出来と言えよう。それこそこの句を「爪弾」いてみれば、読者それぞれにたしかな苦い音を聞けるはずである。『西日家族』(1999)所収。(清水哲男)




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