July 2672001

 処女二十歳に夏痩がなにピアノ弾け

                           竹下しづの女

い女を叱りつけている。「処女」は「おとめ」。夏痩せでしんどいなどと言うけれど、まだ「二十歳(はたち)」じゃないの。若いんだから、たかが夏痩せくらいでグズグズ言わずに、ちゅんと仕事をしなさいっ。作者は、杉田久女や長谷川かな女と同世代の「ホトトギス」同人。はやくに夫を亡くし、五人の子女を女手ひとつで育て上げた。句集を読んでいると、その労苦のほどがしのばれる。同じころに「夏痩の肩に喰ひ込む負児紐」があり、夏痩せの辛さは我とわが身でわかっているのだ。そこを耐えて踏み越えていかなければと、若い女のわがままに我慢がならなかったのだろう。「男まさり」と言われたが、昭和初期の社会で男に伍して生きていくためには、めそめそなどしていられない。天性の気性の強さがあったとはいえ、そうした生活の条件がさらに強さを磨き上げたのである。夫亡き後は、職業婦人として図書館に勤めた。「汗臭き鈍の男の群に伍す」と、心の内で「鈍(のろ)の男」どもに怒りつづける日々であった。ところで、ダイエット流行の今日、掲句の痩せたことを喜ばぬ女性の態度に不審を覚えるむきもあるかもしれない。が、「夏痩」は食欲不振の栄養不良から来るもので、ほとんど病気状態だから、辛いことは辛かったのだ。『女流俳句集成』(1999)所収。(清水哲男)




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