July 2172001

 貧乏な日本が佳し花南瓜

                           池田澄子

瓜は、日本が貧乏だったころを象徴する野菜だ。敗戦の前後、食料難の時代には、いたるところで南瓜が栽培されていた。自宅の庭はもとより、屋根の上にまで蔓を這わせていたのだから、忘れられない。花は夏の間中咲きつづけ、次から次へと実を結ぶ。肥料もままならなかったのに、よほど生命力が強くたくましい植物なのだ。屋根の上の花はともかく、だいたいが地べたにくっつくように咲くので、黄色い花は土埃をかぶって汚らしい印象だった。あまり暑い日には、不貞腐れたようにしぼんでしまう。しぼむと、しょんぼりとして、ますます汚らしい。南瓜ばかり食べて、人々の顔は黄色くなっていた。そんな時代のことを、作者は豊かな日本の畑の一画に「花南瓜」をみとめて、思い出している。肥料も潤沢だから、きっとこの花は、写真に撮って図鑑に載せてもよいくらいに奇麗なのだろう。しかし作者は、きっぱりと「貧乏な日本が佳(よ)し」と言い切っている。貧乏がよいわけはないけれど、いまのような変な豊かさよりは、断じて「佳(よ)し」と。この断言は、さまざまなことを思わせて、心に沁みる。変化球を得意とする作者が、珍しく投げ込んできた直球をどう打ち返すのか。それは、読者個々の思いにゆだねなければなるまい。『ゆく船』(2000)所収。(清水哲男)




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