July 1772001

 浜田庄司旧居の巨き冷蔵庫

                           辻 桃子

某の人となりを偲ぶというときに、業績ばかりではなく遺品も一つの手がかりとなる。故人を顕彰した記念館などに行くと、愛用した品々が展示されている。作家なら原稿用紙とか万年筆だとか、画家ならイーゼルとか絵筆の類だとか。それらもむろん興味深いが、句のようにさりげない生活道具もまた、故人の人となりを雄弁に物語る。故人がこの「巨き冷蔵庫」を気に入っていたかどうか、いや意識していたかどうかもわからないけれど、日常を共にしていたのは確かなことだから、いわゆる愛用品よりも生々しい手がかりとして迫ってくる。「浜田庄司」は陶芸家。バーナード・リーチとの親交や柳宗悦らと民芸運動を推進したことでも知られる。大正末期より益子(栃木県)に定住して、素朴な益子焼の味を生かし、質朴雄勁な作風を確立した。その作風と「巨き冷蔵庫」に、作者は通じるものを感じて、この句を得たのだろう。私は一度だけ、三十年ほど前に益子を訪ねたことがある。浜田庄司邸は見晴らしの良い土地に建っており、大きくて庄屋の家みたいだなと思った記憶がある。存命だったから、家のなかに「巨き冷蔵庫」が置かれているなどは知る由もなかった。いま調べてみたら、没くなったのは1978年(昭和五十三年)のことだった。『花』(1987)所収。(清水哲男)




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