July 0572001

 焼酎のただただ憎し父酔へば

                           菖蒲あや

だんは温和でも、ひとたび飲むと人が変わったようになる。陽気になるのならばまだしも、妙に怒りっぽくなったり暴力的になったりする人がいる。作者の父親も、いわゆる酒癖が悪かったのだ。彼が飲みはじめると、家族みんなで小さくなっていたのだろう。でも、そんなになるのは、決して父親のせいではなく、あくまでも「焼酎(しょうちゅう)」がいけないのだと……。憎しみの対象を「ただただ」焼酎に向けさせているのは、父親への愛情である。そんなになるまで飲むお父さん「も」悪いとは感じていても、それを言いたくない「いじらしさ」。一般論で言えば甘い認識だろうが、家族関係は「一般論」では括れない。一般的に酒乱なら酒乱だけを抽出して何かを言うことはできても、それは作者の「いじらしさ」の出所とはついに無縁であるだろう。ただ、こういう論法自体を、それこそ一般的には酒飲みの自己弁護と言うらしい(笑)。ところで「焼酎」は夏の季語だ。何故か。江戸期の図解入り百科事典『和漢三才図会』に「気味はなはだ辛烈にして、つかへを消し、積聚を抑へて、よく湿を防ぐ」とある。おまけに安価。つまり、手っ取り早い暑気払いには絶好の飲み物というわけである。『新歳時記・夏』(1989・河出文庫)所載。(清水哲男)




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