June 2462001

 麦藁帽妙にふかくて寂しいぞ

                           八田木枯

ァッショナブルな「麦藁帽」はおおむね浅くできているが、実用的な日除けとしてのそれは、つばも広くて深い。中世ヨーロッパの農民を描いた絵にもよく出てくるように、日本でもいまだに農家の必需品である。物の本によれば、ギリシャの昔から、既に実用的に用いられていたのだそうだ。農家の子供時代に、なんとなく父親の「麦藁帽」をかぶってみたことがある。子供用はなかったので(子供が畑仕事に出るときは「学帽」だった)、たわむれに近い好奇心からだ。かぶってみたときに感じたのは、まさに「麦藁帽妙にふかくて」だった。「大きくて」というよりも「深くて」の印象。帽子というものは不思議なもので、他人がかぶっているのを端から見ているだけでは、かぶっている人の心持ちはわからない。身に着けるものは、眼鏡などにしても、みなそうなのかもしれないけれど、極端に言えばその人の人格に影響するようなところがあるようだ。変哲もない「学帽」だってお仕着せではあっても、学校には無縁の今かぶることがあれば、それこそ「妙」な気持ちになるだろう。他人の「麦藁帽」か新しく求めたそれかは知らねども、思いがけない目深さに、自然にきゅうっと「さびしいぞ」と絞り出している作者の心の動きは、よくわかる。『汗馬楽』(1978)所収。(清水哲男)




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