June 1162001

 けむりあげ平日つづくかたつむり

                           田畑耕作

曜日とか金曜日とか、休日や祝日以外の曜日を特定した句は散見されるが、正面から「平日」を捉えて据えた句は珍しい。各曜日にはそれなりの表情があるけれど、平日にはそれが希薄だからである。のっぺらぼうだからだ。そんなのっぺらぼうの日々に「けむりあげ」と表情をつけたのが、掲句。「けむり」は民の竃(かまど)からあがるそれか、それとも直截的に工場街のそれなのか。はたまた、下五の「かたつむり」が想起させる梅雨にけむる人里だろうか。いずれにしても、人間の普通の営みや普通の環境を象徴する形容語として使われているのだろう。動くのか動かないのかわからないほどに、じいっとしている「かたつむり」。「けむり」をあげてはいるが、これまた動いているのかいないのかわからないくらいに凡々たる「平日」の人間のありよう。この二つを取り合わせることで、物憂いような気だるいような「平日」の気分が、意外にも非常に美しいシーンとして彫琢されることになった。この句をそらんじて「平日」の駅やバス停に向かう自分を想像すると、自分もこの句のなかに溶け込んでいるような気分になるだろうなと思った。悪くはないね、この気分。「平日つづく」明日もまた、いつものように「けむり」をあげて。『昭和俳句選集』(1977・永田書房)所載。(清水哲男)




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