June 0262001

 どくだみの花いきいきと風雨かな

                           大野林火

が家の近所には「どくだみ」が多い。あちこちに、群がって自生している。このあたりは古い地名では「品川上水」と言い、清水を通す大きな溝が掘られていて、全体的に湿地であったせいだろう。「どくだみ」は陰湿の地を好み、しかも日陰を好む。梅雨期を象徴するような花だ。川端茅舎に「どくだみや真昼の闇に白十字」の一句があるように、この花と暗さとは切っても切れない関係にある。その上にまた特異な臭気を放つときているから、たいていの人からは嫌われている。そのことを当人たち(!?)も自覚しているかのように、ひっそりと肩寄せ合って地味に生きている。その嫌われ者が、折からの「風雨」のなかで「いきいきと」していると言うのだ。物みな吹き降りの雨に煙ってしょんぼりしているなかで、「白十字」たちのみが「いきいき」と揺れている姿に、作者は感動を覚えた。雨の日の外出を鬱陶しく思っている心に、元気を与えられたのである。「どくだみ」は、十の薬効を持つと言われたことから「十薬(じゅうやく)」とも賞されてきた。「十薬の芯高くわが荒野なり」(飯島晴子)。ただし、正確にはこの黄色い穂状の「芯」の部分が花で、「白十字」は花弁ではなく苞(ほう)なのだそうだ。『俳句の花・下巻』(1997・創元社)所載。(清水哲男)




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