January 0912001

 猟夫伏せ一羽より目を離さざる

                           後藤雅夫

語は「猟夫(さつお)」で冬、多くの歳時記で「狩」の項目に分類されている。ねらっているのは、雉などの山鳥か、鴨などの水鳥だろうか。精神を集中し、伏せてねらうハンターの眼光炯々たる姿が彷彿としてくる。私のささやかな空気銃体験からしても、ねらいは「一羽」に定めないと必ず失敗する。あれもこれもでは、絶対に撃ち損ずる。猟の世界は、まさに「二兎を追う者は一兎をも得ず」なのだ。農村にいたころは、農閑期となる冬に猟をする男たちが多かった。犬を連れて、山奥に入っていく姿をよく見かけた。たまさか聞こえてくる猟銃音に、どうだったかと期待したものだ。獲物はたいていが雉か兎で、帰ってきた男たちが火を焚き、それらを手早く捌いていく様子に見ほれていた。ところで揚句とは逆に、ねらわれる鳥の様子を詠んだのが、飯田蛇笏の「みだるるや箙のそらの雪の雁」である。「箙(えびら)」は、矢を入れるための容器。空飛ぶ雁には地上の猟師たちが持つ「箙」の無数の矢数が見えており、いまにもそれらが飛んでくる気配に恐怖を感じているのであり、したがって飛列も大いに乱れることになる。雁からすれば、恐怖感で地上の「箙」しか眼中にはないだろうから、作者は「箙のそら」と単純化した。力強くも、雁の哀れを描いて見事と言うほかはない。このとき、蛇笏二十七歳。若くして、完成された句界を持っていたことがわかる。『冒険』(2000)所収。(清水哲男)




『旅』や『風』などのキーワードからも検索できます