January 0612001

 女手の如き税吏の賀状来ぬ

                           ねじめ正也

者は商店主だったから、税吏(ぜいり)とは不倶戴天の間柄(笑)だ。いつも泣かされているその男から、どういう風の吹き回しか、年賀状が舞い込んだ。そのことだけでもドキリとするが、どう見ても「女手(女性の筆跡)」なのが、彼の日ごろのイメージとは異なるので解せない。カミさんに書かせたのか、それとも自分で書いたのか。見つめながら、寸時首をかしげた。結論は「女手の如き」となって、彼の自筆だというところに落ち着いた。彼本来の性格も、これで何となく読めた気がする。今後は、応接の仕方を変えなければ……。正月は、税金の申告に間近な時季なので、リアリティ十分に読める句だ。だれだって、税金は安いほうがよい。大手企業とは違い、商店の商い高など知れているから、多く税吏との確執は必要経費をめぐってのそれとなるだろう。商売ごとに必要経費の実質は異なるので、税吏との共通の理解はなかなか成立しないものなのだ。税吏は申告の時期を控えて、話をスムーズにすべく賀状を出したのだろうが、さて、この後に起きたはずの二人のやり取りは、いかなることにあいなったのか。いずれにしても成り行きは「自転車の税の督促日短か」と追い込まれ、春先には「蝿生る納税の紙幣揃へをり」となっていく。商人は、一日たりともゼニカネのことを思案しないではいられない身空なのだ。『蝿取リボン』(1991)所収。(清水哲男)




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