December 26122000

 鱒鮓や寒さの戻る星の色

                           古館曹人

鮓(ますずし)は富山の名産と聞くが、本場ものは食べたことがない。いわゆる押し寿司だろうか。冬の鮓の冷たい感触は、冷たさゆえに食欲をそそる。傍らに熱いお茶を置き、冷たさも味のうちとして賞味する。揚句では、さらにサーモン・ピンクの鱒の色が、戻ってきた寒さのなかに明滅する星の色にしみじみと通いあっており、絶品だ。ふと、通夜の情景かもしれないと思った。亡き人を偲ぶとき、私たちは吸い込まれるように空を見上げる。死者が召されるという暗黒の「天」には、星がまたたいている。その星のまたたきが、生き残った者たちの慰めとなる。まったく見当外れの読みかもしれないが、いまの私には、むしろこう読んだほうが、しっくりくる。今夜、詩人仲間の加藤温子さんのお通夜(於・カトリック吉祥寺教会)がとりおこなわれる。明日の葬儀ミサには行けないので、今夜でお別れだ。二十年に近いおつきあいだった。きっと星はまたたいてくれ、私はきっと見上げるだろう。温子さん、いつものジーパン姿で会いに行くからね。『樹下石上』所収。(清水哲男)




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