December 16122000

 目をかるくつむりてゐたる風邪の神

                           今井杏太郎

ま風邪を引いている人には、おそらく腹立たしい句だろうが、それだけ真に迫った句だ。「風神」は有名だが、「風邪の神」とは初耳だ。でも「貧乏神」がいるくらいだから、「風邪の神」だっていてもよさそうである。いるとすれば、様子はたしかにこのようだろう。瞑目でもなく半眼でもなく、軽く目を閉じている。うっすらと笑みすら浮かべていそうな余裕のある態度で、さて次は誰にとりついてやろうかと、ほんの少し思案している。決して深く考えてなどいないわけで、いつもほとんど悪戯っぽい思いつきの決断をくだすのである。だから、だれかれ構わず気楽にひょいととりついてくる。我々にとっては迷惑至極、困った神様だ。……なんてことをあまり書いていると、今夜あたりとりつかれるかもしれない(笑)が、とにかく上手な句です。いや、上手すぎて「にくい」句と言うべきか。このように、空想の世界を「さもありなん」と伝えるのはなかなかに難しい。が、作者はそのあたりを楽々とクリアーして、いとも簡単そうに詠んでみせている。この肩の力の抜け具合が、なんとも魅力的だ。今後も、要チェックの俳人である。この句に引きずられて、いろいろな神の様子を想像するのも楽しいだろう。それこそ「貧乏神」の私のイメージは、痩身でよれよれしてはいても、目だけはカッと見開いていて冷たい光りを放っていそうだ。しかも居候好きな気質だからして、一度上がりこんできたら、なかなか出ていってくれない。逆に「福の神」はかなり薄情で、さっさと出ていってしまう。『海鳴り星』(2000)所収。(清水哲男)




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