December 01122000

 盛り上がり珠となる血や十二月

                           渡辺鮎太

て、十二月。諸事雑事に追われて、ともすれば自分を見失いがちな月。何年前だったか。もうどこの雑誌に書いたのかも忘れてしまったが、ずばり「十二月」というタイトルの詩を書いたことがある。「大掃除をしなければならぬ」という具合に、全行「……しなければならぬ」だけでまとめた。書いているうちに、次から次へと「……しなければならぬ」ことが出てきて、驚きかつ呆れたことを覚えている。安住敦に「一弟子の離婚の沙汰も十二月」があり、「……しなければならぬ」のなかには、他人事もからんできたりする。掲句はそんな当月の日常のなかで、不意に我にかえった一刻をとらえていて見事だ。忙しくしている最中に、うかつにも何か鋭いもので、手かどこかを突いてしまったのだろう。「いけないっ」と見ると、小さな傷口から血が出てきた。見るうちに、血が「盛り上が」ってくる。その盛り上がった様子を、美しい「珠」のようだととらえたとき、作者は我にかえったのだ。かまけていた眼前の雑事などは一瞬忘れてしまい、自分には生身の身体があることを認識したのである。忙中に美しき血珠あり。小さな血珠に、大きな十二月を反射させて絶妙だ。よし。この十二月は、この句を思い出しながら乗りきることにしよう。「俳句研究」(2000年12月号)所載。(清水哲男)




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