October 23102000

 階段は二段飛ばしでいわし雲

                           津田このみ

気晴朗、気分爽快、好日だ。だだっと階段を、二段飛ばしで駆け上がる。句には、その勢いが出ていて気持ちがよい。女性の二段飛ばしを見たことはないが、やっぱりやる人はやっているのか(笑)。駅の階段だろう。駆け上がっていったホームからは、見事な「いわし雲」が望めた。若さに溢れた佳句である。私も若いころは、しょっちゅう二段飛ばしだった。山の子だったので、勾配には慣れていた。しかし、今はもういけません。目的の電車が入ってくるアナウンスが聞こえても、えっちらおっちら状態。ゆっくり上っても、階段が長いと息が切れる。それこそ二段飛ばしで駆け上がる若者たちに追い抜かれながら、「一台遅らすか」なんてつぶやいている。追い抜かれる瞬間には、若者がまぶしく写る。嫉妬ではなく、若さと元気が羨ましくてまぶしいのだ。ところで、サラリーマン時代の同僚が、二段飛ばしで駆け降りた。仙台駅で東京に帰るための特急に乗ろうとして、時間がなかったらしい。慌てて駆け降りているうちに転倒して頭の骨を折り、即死だった。三十歳になっていただろうか。まだ十分に若かった。そして、若い奥さんと赤ん坊が残された。駆け上がりはまだしも、駆け下りは危険だ。ご用心。掲句を見つけたときに、ふっと彼の人なつこい笑顔を思い出したりもした。『月ひとしずく』(1999)所収。(清水哲男)




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