October 06102000

 煙草女工に給料木犀よりあかるし

                           飴山 實

料日。不思議なもので、誰が口に出すわけでもないのに、なんとなく会社や工場のなかがはなやぐから、訪ねた第三者にもそれとわかる。作者は戦後間もなく、生活改善運動などに取り組んでいたので、その折りの一光景だろうか。まだ「女工」という言葉が生きていた。決して高くはない給料を手にした彼女たちが素直に喜んでいる様子を、敷地内の「木犀(もくせい)」に「よりあかるし」と照り返させている。愛情にいささかの哀惜の情が入り交じって、美しい一句となった。この「より」を「MORE」ではなく「THAN」と読むことも可能だが、私には「MORE」のほうが工場全体の雰囲気を伝えていて、好もしい。「THAN」だと、句が平板になるように思う。いずれにしても、当時の給料は現金支給だったので、明るさが自然に素朴に出たのだろう。私が勤めていた1960年代の河出書房もキャッシュであり、おまけに月二回システムだったから、社内は月に二度はなやいだ。もっとも、その頃の文藝春秋社などは、なんと週給制を採用していた。どういうわけだったのだろう。『おりいぶ』(1959)所収。(清水哲男)




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