September 3092000

 色鳥の尾羽のきらめき来ぬ電話

                           恩田侑布子

んな場面を想像する。絶好の行楽日和。外出の仕度は、すっかりととのった。後は、車で迎えに来てくれる人を待つのみだ。およその時間はあらかじめ約束してあるのだが、道路の混み具合もあるので、当日の今日、もう一度電話をもらうことになっている。その電話が、なかなかかかってこない。約束の時間は、もう大幅に過ぎている。もしやと思い、先方に電話を入れてみたが、とっくに家は出ているという。そろそろ着くころだという。となると、途中で何かあったのだろうか。不安になる。が、あれこれ考えてみても仕方がない。結局は、待つしかないのである。苛々しながら窓の外を見やると、何羽かの鳥の尾羽が樹間にきらめいている。普段であれば美しく思える光景も、いまは苛々度を助長するばかりに見えてしまう。電話は、まだ、かかってこない……。「色鳥(いろどり)」は、いろいろな鳥と色とりどりの美しい鳥とをかけた季語だ。総称的に、秋の小鳥の渡りについて言う。したがって、掲句のように焦慮感につなげて詠まれるケースは珍しい。そこが、この句の新しさだと思った。少々ふざけておけば、このときの「色鳥」はほとんど「苛鳥(イラドリ)」なのである。『イワンの馬鹿の恋』(2000)所収。(清水哲男)




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