September 1192000

 十五から酒をのみ出てけふの月

                           宝井其角

秋の名月には「十五夜」「望月」「明月」などいろいろな言い方があって、「けふの月(今日の月)」もその一つ。なかには「三五の月」という判じ物みたいな季語(3×5=15)もある。それぞれに微妙なニュアンスの差があり、「けふの月」には「今年今月今夜のこの月」をこそ愛でるのだという気合いがこもっている。「月今宵」とほぼ同じ感覚だ。さて、数え年で十五といえば、まだ中学二年生。「のみ出て」は「常飲しはじめて」の意味で、好奇心からちょっと飲んでみたのではない。其角がその一年前に蕉門に入っていることを考え合わせれば、現代の目からすると、よく言えば早熟、悪く言えばずいぶんとひねこびた子供だった。しかし、元服(成人式)が最若十一歳くらいから行われていた時代なので、現代とはかなり事情が違う。が、こうして其角があらためて「十五から」と回想しているくらいだから、子供の酒飲みはそんなにいなかったのだろう。陰暦では月の満ち欠けが時間の指標だったわけで、これまた現代人とは大いに月の見方は異なっている。すなわち「けふの月」に来し方を回想するのは、当時の人々にとってはごく自然な心の働きだったはずだ。その回想の基点を「十五夜」にかけて「十五」という年齢に定め、しかも月見の宴にかけて「飲酒」に焦点を絞ったところは、やはり非凡な才能と言うべきか。とにかく、カッコいい句だ。思い返せば、私が「のみ出」したのは二十歳を過ぎてから。かたくなに法律を守ったかのようで、カッコわるい。なお、今年の名月は明日12日です。(清水哲男)




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