September 0492000

 切るだけで貼らぬ切抜き秋暑し

                           後藤雅夫

聞や雑誌の記事の「切抜き」。仕事にせよ趣味にせよ、あれはなかなか面倒なものだ。切り抜くだけは切り抜いても、きちんとスクラップ・ブックに貼っておかないと、用をなさない。つい、切り抜いたままにしてしまう。それが、どんどん溜まってくる。作者の机上にあるのは、おそらく今日の「切抜き」だけではないのだろう。涼しくなったらちゃんと整理しようと思っていたのが、いっこうに涼しくなってくれない。残暑が厳しい。だから、今日も面倒になって、切り抜いたままで放置してしまった。もちろん、大いに気にはなっている。その気持ちが「秋暑し」に、ぴたりと結びついている。私にも「切抜き」の覚えがあるので、よくわかる。何度もチャレンジして、一度も成功しなかった。本棚にはスクラップ・ブックが数冊あるが、引っ張り出すと、ばらばらっと貼ってない「切抜き」が抜け落ちてくる。おのれの怠惰を見せつけられたようで、愉快な気分じゃない。ならば貼らないで整理しようかと、山根一眞流に、項目分けした袋に放り込む方針に転換した。「俳句」の記事は「俳句」と書いた袋に、「野球」関係は「野球」の袋にと。この方法はけっこう長続きしたが、そのうちに切り抜くこと自体が面倒になり、あえなく頓挫。こういうことは、性に合わないらしい。『冒険』(2000)所収。(清水哲男)




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