August 3182000

 夏休み果つよ音痴のハーモニカ

                           中谷朔風

かった夏休みも、今日でおしまいだ。何事につけ、おしまいには寂寥感が漂う。作者はおそらく、休みの間中、近所の家から聞こえてくる子供の下手なハーモニカに悩まされつづけたのだろう。熱心なのは結構だが、ひどい調子外れだけは何とかならないものか、と。でも、それも今日でおしまいだと思うと、逆になんだか寂しい気持ちになってくる。ピアノやバイオリンなどよりも、ハーモニカの音色そのものが寂しさを伴っているので、寂寥効果を引き上げている。「音痴のハーモニカ」がおしまいになれば、作者の夏もおしまいである……。夏休みの終わりといえば、嶋田摩耶子に「夏休み最後の午後の捕虫網」がある。まだ宿題ができていなくて昆虫採集に励んでいるのか、あるいはいつもと同じ調子で捕虫網を振り回しているのか。いずれにしても、もう明日からはこの活発な様子は見られない。「最後の午後」と言い止めたところに、やはりいくばくかの寂寥の心が滲んでいる。「もう、秋か」。ランボーの詩句がよみがえるのも、今日。新潮社版『俳諧歳時記・夏』(1968)所載。(清水哲男)




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