August 2982000

 とんぼ連れて味方あつまる山の国

                           阿部完市

味方に分かれての遊び。学校から戻ってくると、飽きもせずに毎日繰り返す。だが、子供にも事情というものはあるから、互いのメンバーがいっせいに揃うということはない。適当な人数が集まったところで、試合開始だ。敵味方は、いつも通りの組み合わせ。片方が少ないからといって、相手から戦力を借りるようなことはしない。それでは、気持ちが「戦い」にならない。非力劣勢はわかっていても、堂々と戦うのだ。男の子の侠気である。多勢に無勢、苦戦していると、遠くの方から一人、また一人と「味方」が駆けてきた。集まってきた。このときの嬉しさったら、ない。そんなに上手な子ではなくても、百万の「味方」を得たような気分になる。周辺に飛んでいる「とんぼ」までをも、その子が「味方」に連れてきたように感じたということ。「山の国」の日暮れは早い。さあ、ドンマイ、ドンマイ、挽回だ。私が子供だったころの子供の事情の多くは、宿題や勉強にはなかった。仕事だった。子守りや炊事に洗濯、水汲みに風呂わかし、家畜の世話など、農家の子供は仕事を終えてからでないと遊べなかった。農家に限らず、日本中で子供が働いていた時代が確かにあった。掲句は、そうした時代背景を知らないと、よく理解できないかもしれない。『絵本の空』所収。(清水哲男)




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