August 1482000

 枝豆やこんなものにも塩加減

                           北大路魯山人

者は、あの陶芸家の魯山人。料理の研究家としても有名だった。たしかに、言えている。「こんなものにも」そして「どんなものにも」、ちょっとした匙加減一つで美味くもなれば不味くもなる。句の出典は不明。たまたま、辻嘉一(懐石料理「辻留」主人)の『味覚三昧』(1979)を読んでいて思い出した。両者は面識があったのだが、この本にこの句は載っていない。いったい、どこで私はこの句を知ったのだろう。で、辻嘉一は書いている。「塩水を煮立たせた中へ大豆を入れ、蓋をしないで茹でると色よく茹であがります。しかし、本当の旨味は、水から塩加減の中でゆっくり軟かく茹でて、蓋をしておき、冷えるのを待っていただくと、その味わいは素晴しく、歯ざわりりはむっちりとして、味が深いものですが、退色して茶っぽくなり、いくらでも食べられるので気をつけましょう」。とすると、ビアホールなどで出てくる緑色の「枝豆」は、本当の旨味を引き出していないわけだ。子供のころに母が茹でてくれたものは、そう言えば、きれいな色はしていなかった。「塩加減」ならぬ「茹で加減」が違ったのだ。「色」か「味」か。現代では、圧倒的に「色」のよいものが好まれる。なお「枝豆」は、それこそビアホールなどで初夏くらいから出回るために、旬はとっくに過ぎていると錯覚している人もいるようだ。が、実はこれから。秋の季語。「豆名月」という季語もあり、名月に供えるのは「枝豆」と決まっている。(清水哲男)




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