August 1282000

 いつまでも捕手号泣す蜥蜴消え

                           今井 聖

合に敗れたチームの「捕手」が、ベンチ脇の草叢に突っ伏して、声をあげて泣いている。プロテクターやレガーズをつけたままだから、「捕手」と知れる。チームメイトが肩などを叩いてやるが、いつまでも泣きやまない。高校野球の地方予選では、ときおり目にする光景だ。このときに「蜥蜴(とかげ)消え」とは、彼の夏が終わったことを暗示している。「蜥蜴」は夏の季語。でも、なぜ「蜥蜴」なのだろうか。彼が「捕手」だからだと、私は読んだ。「捕手」の目は、ナインのなかで一番地面に近い。グラウンドの片隅にある投球練習場所の近くには、たいてい草叢があるので、そこに出没する「蜥蜴」を、彼はいつも目にしてきたわけだ。他の選手は、草叢に「蜥蜴」がいることさえ知らないだろう。でも、負けてしまったので、この夏にはもう「蜥蜴」を見ることもないのである。したがって、作者は「蜥蜴消え」と押さえた。投手を詠んだ句は散見するが、素材に「捕手」を持ってくる句は少ない。地味なポジションに着目するあたり、作者はよほどの野球好きなのだろうか。「グロウブを頭に乗せて蝉時雨」と、微笑を誘われる句もあるので、相当に熱心な人のようではある。「俳句文芸」(2000年8月号)所載。(清水哲男)




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