July 1372000

 藺ざぶとん難しき字は拡大し

                           波多野爽波

は「い」と読み、「藺ざぶとん」は藺草(いぐさ)で織った夏用の座布団のこと。よく見かける座布団で、四角いものも丸いものもある。なるほど「藺」という字は難しい。何気なく尻に敷いている「藺ざぶとん」だが、ふと「藺」というややこしい漢字が気になったので、調べてみたのだろう。でも、辞書の文字が小さくて、よく見えない。早速、天眼鏡で拡大してみて、ははあんとうなずいている。最近は、いつもこうだ。だいぶ視力が衰えてきたなア。そんな思いを、深刻めかさずに詠んでいる。テーマが「藺ざぶとん」そのものにはなく、名前の一文字であるところから、とぼけた味わいが浮かんでくるのだ。多くの読者にとっては、どうでもよいようなことであり、もとより爽波もそんなことは承知の上で作っている。これぞ、人をクッた爽波流。そういえば辻征夫(俳号・貨物船)にも似たような才質があって、たとえば「つという雨ゆという雨ぽつりぽつり」であるが、上手いのか下手なのか、さっぱりわからない。でも、確実にとぼけた良い味は出せている。『一筆』(1990)所収。(清水哲男)




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