July 0172000

 夕月に七月の蝶のぼりけり

                           原 石鼎

しい。文句なし。暮れ方のむらさきいろの空に白い月がかかって、さながらシルエットのように黒い蝶がのぼっていった。まだ十分に暑さの残る「七月」のたそがれどきに、すずやかな風をもたらすような一句である。「月」と「蝶」との大胆な取りあわせ。墨絵というよりも錦絵か。しかし、そんじょそこらの「花鳥風月図」よりも、もっと絵なのであり、もっと凄みさえあって美しい。掲句に接して、思ったこと。私などのように、あくせくと何かに突っかかっているばかりでは駄目だということ。作者の十分の一なりとも、美的なふところの深さを持たなければ、せっかく生きている値打ちも薄れてしまう。このままでは、美しいものも見損なってしまう。いや、もうずいぶんと見損なってきたにちがいない……。「増殖する俳句歳時記」開設四周年にあたって、もう一つ何かに目を開かれたような気分のする今日このときである。今後とも、どうかよろしくおつきあいのほどを。ちなみに、句を味わっている読者の雰囲気をこわすようで恐縮だが、本日は昼の月で月齢も28.6。残念ながら、晴れていても見えない。平井照敏編『新歳時記・夏』(1989・河出文庫)所載。(清水哲男)




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