June 2262000

 毛虫の季節エレベーターに同性ばかり

                           岡本 眸

くわからないが、何となく気になる句がある。これも、その一つ。こうした偶然は、女性客の多いデパートのエレベーターなどで、結構起きているのだろう。「同性ばかり」とこだわっているからには、二、三人の同性客ではない。満員か、それに近い状態なのだ。それでなくとも、満員のエレベーターのなかは気詰まりなのに、同性ばかりだから無遠慮に身体や荷物を押し付けてくる女もいたにちがいない。なかには人の頭を飛び越して、傍若無人の大声でロクでもない会話をかわしている……。そこでふと、作者はいまが「毛虫の季節」であることを連想したということだろうか。着飾ってはいるとしても、蝶の優雅さにはほど遠い女たち。毛虫どもめと、一瞬、焼き殺したくなったかもしれない。おぞましや。句の字余りが、怒りと鬱陶しさを増幅している。こんなふうに読んでみたが、ここはやはり作者と同性の読者の「観賞」に待つべきだろう。エレベーターで思い出した。昭和の初期に出た「マナー読本」の類に「昇降機での礼儀心得」という項目があり、第一項は次のようであった。「昇降機に乗ったら、必ずドアのほうに向き直って直立すべし」。向き直らない人もいたようである。『朝』(1961)所収。(清水哲男)




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