May 1552000

 はつなつのコーリン鉛筆折れやすし

                           林 朋子

雑誌広告・1956
雑誌「野球少年」広告・1956年1月号
しや、コーリン鉛筆。子供のころ、私も肥後守(小刀)で削ってよく使った。他の銘柄には「トンボ鉛筆」「三菱鉛筆」「ヨット鉛筆」「地球鉛筆」「アオバ鉛筆」など。あのころの鉛筆は折れやすく、割れやすかった。なかには芯に砂が混ざっているような粗悪品もあり、書くたびにギシギシ変な音がしたりした。コーリン鉛筆も、上等のほうじゃなかったと思う。でも、私は名前の響きが好きで愛用していた。もちろん、「コーリン」の意味などわかってなかった。英語を習うようになってから、「コーリン」は"colleen"とつづり、アイルランド英語で「(美)少女」の意味だと知ったときは嬉しかった。しかし、なぜこんな難しい言葉を銘柄に選んだのだろうか。鉛筆のマークにも女の子の絵などなかった(広告左上を見ると「花王」マークもどき)し、さぞや宣伝しにくかったろうに。よほど言葉の響きに自信があったのか。事実、私は響きに吸い寄せられたクチだけれど……。ところで、句の「はつなつ」は、理屈で考えれば他の季節とも入れ替え可能だ。鉛筆が折れやすいのは、なにも「はつなつ」とは限らない。だが、あの鉛筆の緑色がいちばん似合う季節をよく考えてみると、やはり「はつなつ」をおいて他にはないだろう。鉛筆が折れやすくて哀しかった記憶も、いまでは「はつなつ」に溶け入って甘美ですらある。『森の晩餐』(1994)所収。(清水哲男)




『旅』や『風』などのキーワードからも検索できます