April 2942000

 あすなろの明日を重ねし春落葉

                           丸山海道

葉樹とは違って、シイやカシ、ヒノキなどの常緑樹は晩春に葉を落とす。「あすなろ(翌桧)」はれっきとしたヒノキ科だから、落葉はやはり春だ。名前の「あすなろ」は「明日はヒノキになろう」の意で、地方によってはずばりと「アスハヒノキ」と呼んでいるという。他には「アスヒ」「シロヒ」「ヒバ」などとも。句は、大きな「あすなろ」の落葉が重なっている様子を「明日」の重なりに見立てたもの。すなわち、「明日はヒノキになろう」とする、その希望の「明日」が、ついに実現されることなく地上に幾重にも重なって落ちてしまっている傷みを詠んでいる。しかし、不思議に無残は感じられない。秋冬の落葉はうら寂しいが、明るい陽光に舞い落ちてくる春落葉は陽性だ。夏の日を前に、いっそ葉を落としてすっきりとしたような、そんな気分に感じられるからだろう。傷ましいとは思いつつも、作者は一方で「がんばれよ、そのうちきっとヒノキになれるさ」と、明るい顔で慰めてもいるのだろう。健気な「あすなろ」への激励句だと、ここは読んでおきたい。『新日本大歳時記・春』(2000・講談社)所載。(清水哲男)




『旅』や『風』などのキーワードからも検索できます