April 1842000

 わが屋根をゆく恋猫は恋死ねや

                           藤田湘子

となく夜となく、屋根の上で狂おしくも鳴きわめく恋の猫。この句、だいぶ前から知ってはいたけれど、「恋死ねや」が理解できないまま頭にひっかかっていた。どういう意味なのか。「そんなに恋い焦がれていると、いずれ衰弱して死んでしまうぞ」ということなのだろうか。よくわからなかった。で、最近になってたまたま「俳句研究」(2000年4月号)を見ていたら、「湘子自註」という連載がはじまっており、句の自註が載っていた。「やった」と飛びついて、しっかりと読んだ。以下、全文。「(昭和)二十八年に大森の下宿から荻窪の下宿に移った。ばかに猫が多いと思ったのは、主の老婆が野良猫どもに餌を与えるからだった。隣家にはソプラノの発声練習を憚らぬ老嬢。大森とはまったく違った声、声、声。それでやや業を煮やした一句」。そうだったのか。私は、やや無理をして「や」を詠嘆的にとらえていたようだ。ストレートに「こいじねや」と読んで、「やかましいッ、お前なんぞは勝手に恋に狂って死んでしまえッ」と、業を煮やした末の怒りの発声だったのだ。しかも、うるさかったのは猫だけじゃなかったのだが、恋猫に八つ当たりをした句でもあった。しかし、そこまでは誰にも読めはしない。『途上』(1955)所収。(清水哲男)




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