April 1542000

 野遊びの皆伏し彼等兵たりき

                           西東三鬼

地よい春の日差しを浴びて、のんびりと野に憩う仲間たち。楽しい一時だ。吟行の途次であるのかもしれない。そのうちに、一人二人と芳しい草の上に身を横たえはじめた。が、気がつくと、彼等はみな腹ばいになっている。一人の例外もなく、地に伏せている。偶然かもしれないが、仰向けになっている者は一人もいないのだ。その姿に、三鬼は鋭くも戦争の影を認めた。彼らは、かつてみな兵士であった。だから、こうして平和な時代の野にあるときでも、無意識に匍匐の姿勢、身構えるスタイルをとってしまうのである。兵士の休息そのものだ。習い性とは言うけれど、これはあまりにも哀しい姿ではないか。明るい陽光の下であるだけに、こみあげてくる作者の暗い思いは強い。「兵たりき」読者がおられたら、一読、たちどころに賛意を表される句だろう。明暗を対比させる手法は俳句のいわば常道とはいえ、ここまでの奥深さを持たせた句は、そうザラにあるものではない。『新改訂版 俳句歳時記・春』(1958・新潮文庫)所載。(清水哲男)




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