March 1532000

 瓦せんべい風をまくらにねむる町

                           穴井 太

季の句だが、風の強い春先ないしは野分けの季節を思わせる。「瓦せんべい」の名産地なのだろうが、私には見当がつかない。。町並みもまた瓦(屋根)のつづく古い土地で、風の強い夜には、人っ子ひとり歩いていない。町の人は、みんなもう眠ってしまっているかのようである。ごうごうと吹きすぎる風の音のみで、町は風をまくらに寝ているという感じがしてくるのだ。真っ暗な工場の倉庫では、ひりひりと瓦せんべいが乾いていることだろう。旅にしあれば、こんなことを思うことがある。ところで、余談。瓦せんべいは小麦粉で作りますが、有名な「草加せんべい」などは米粉製ですね。小麦粉せんべいのほうが、ずっと歴史は古く、源は遠く中国に発しているのだそうです。小麦粉製であれ米粉製であれ、せんべいは好物でしたが、どうも最近はいけません。職場でのおやつに出たりすると、小さく割ってから口に入れることにしています。若いころは、ビールの栓だって歯で抜けたのに……。「もう、あかんなア」という心持ちにならざるをえません。『天籟雑唱』(1983)所収。(清水哲男)




『旅』や『風』などのキーワードからも検索できます