March 1332000

 春不況マンガと日経を読む若さ

                           福住 茂

況は、もとより季節などには関係はない。が、句の「春不況」の「春」には意味がある。おりしも春闘の時期だからだ。同じ作者に「十五夜の光る鉄路を点検す」があるので、鉄道労働者だと知れる。昔は基幹産業の担い手として、鉄道労組の春闘は注目の的だった。実力行使ともなれば、電車が止まってしまうのだから、この時期には新聞などでも闘争の予測や思惑が華々しくとびかったものである。それが最近では、不況のせいで、まったく沈静化してしまった。鉄道に労組なんてあるのか、そんな感じにまでなってきた。先の日比谷線事故でも、労組の見解やアピールは何も聞こえてこない。危険と向き合いながら現場で働く人々の声こそ、利用者は聞きたいのに……。かつての激しい春闘時代を知る作者は、この季節にのほほんと漫画を読み、他人事のように「日本経済新聞」を読む若者たちに、半ば呆れ、半ば感嘆している。たしかに、時代は変わってしまった。しかし、この変わりようで本当によいのだろうか。句は、そういうことを言いたいのだ。現代俳句協会編『現代俳句年鑑2000』(1999)所載。(清水哲男)




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