March 0832000

 大人だって大きくなりたい春大地

                           星野早苗

直に、おおらかな良い句だと思った。辻征夫(辻貨物船)の「満月や大人になってもついてくる」に似た心持ちの句だ。三つの「大」という字が入っている。もちろん、作者は視覚的な効果を計算している。辻の句とは違い、技巧の力が働いている。このとき「春大地」の「大」に無理があってはならないが、ごく自然にクリアーした感じに仕上がった。ホッ。だから、句の成り立ちからして、掲句は写生句ではありえない。頭の中の世界だ。その世界を、いかに外側の世界のように出して見せるのか。そのあたりの手品の巧拙が勝負の句で、「船団の会」(坪内稔典代表)メンバーの、とくに女性たちの得意とする分野と言ってよいだろう。が、このような句作姿勢には常に危険が伴うのだと思う。技巧と見せない技巧を使うことに執心するがために、中身がおろそかになる危険性がある。「おろそか」は、技巧の果てに作者も予期しない別世界が出現したときに、「これはこれで面白いね」と自己納得してしまう姿勢に属する。俳句は短い詩型だから、この種の危険性は、なにも「船団俳句」に特有のことではないのだけれど、最近「船団」の人の句をたくさん読んでいるなかで、ふと思ったことではある。『空のさえずる』(2000)所収。(清水哲男)




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