March 0532000

 準急のしばらくとまる霞かな

                           原田 暹

急に乗っているのだから、長旅の途中ではない。ちょっとした遠出というところだ。ポイントの切り換えか、後からの急行を追い抜かせるためか、いずれにしても、数分間の停車である。急いでいるわけでもないので、春がすみにつつまれた周辺の風景を、作者はのんびりと楽しんでいる。急行だったら苛々するところを、準急ゆえの、この心のゆとり。車内もガラガラに空いていて、快適な環境だ。こんなときに私などは、どうかすると、このままずうっと停車していてほしいと思うときがある。時間通りに目的地に着くのが、もったいないような……。都会の「通勤快速」だとか「快速電車」だとかは、命名からしてあわただしい感じだけれど、「準急」とはよくも名付けたり。名付けた人は、単に「急行」に準ずる速さだからと散文的に考えたのだろうが、なかなかにポエティックな味がある。同じ作者に「折り返す電車にひとり日永かな」もあって、ローカル線の楽しさがにじみ出ている。「鉄道俳句」(?!)もいろいろあるなかで、地味ながら異色の作品と言ってよいだろう。ああ、どこかへ「準急」で行きたくなってきた。『天下』(1998)所収。(清水哲男)




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