January 2412000

 日脚伸ぶ夕空紺をとりもどし

                           皆吉爽雨

なみに、今日の東京の日没時刻は16時59分。冬至のころよりは30分近く、夕刻の「日脚」が伸びてきた。これからは、少しずつ太陽の位置が高くなって、家の奥までさしこんでいた日光が後退していく。それにつれて、今度は夕空の色が徐々に明るくなり「紺」を取り戻すのである。この季節に夕空を仰ぐと、ひさしぶりの紺色に、とても懐しいような感懐を覚える。「日脚伸ぶ」という季語を、空の色の変化に反射させたセンスは鋭い。まさに「春近し」の感が、色彩として鮮やかに表出されている。私などは、本当の春よりも、新しい季節が近づいてくるこうした予感のほうに親しみを覚える。単なるセンチメンタリストなのかもしれないが、たまさか「よくぞ日本に生まれけり」と思うのは、たいていが移ろいの季節にあるときだ。一方、病弱だった日野草城には「日脚伸びいのちも伸ぶるごとくなり」という感慨があった。本音である。「生きたい」という願望が、自然の力によって「生かされる」安息感に転化している。病弱ではなくとも、「いのち」のことを思う人すべてに、この句は共感を呼ぶだろう。(清水哲男)




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