January 0812000

 凧の空女は男のために死ぬ

                           寺田京子

臘から、この句を反芻しては解釈に呻吟してきた。わかりやすいようでいて、わかりにくい。作者が、凧揚げの空を見ているところまではわかる。奴凧、武者絵凧、あるいは「龍」の文字凧など。揚げているのはほとんどが男たちだから、「凧の空」は男の世界だ。でも、なぜ「女は男のために死ぬ」という発想につながるのだろうか。もつれた凧糸をほどくように時間をかけてみても、根拠はよくわからない。私の乏しいデータによると、作者は十代で死も覚悟せざるをえない胸部の病におかされたという。したがって「死」の意識はいつも実際に身近にあったわけで、たとえば演歌のように演技的に発想しているのではないことだけは確かだろう。だが、なぜ「男のために」なのか。十日間ほど考えているうちに得た一応の結論は、ふっと作者が漏らした吐息のような句ではないかということだった。字面から受ける四角四面の意味などはなく、ふっとそう感じたということ。男社会を批判しているのでもなく、ましてや男に殉じることを認めているのでもなく、そうした社会意識からは遠く離れて、ふっと生まれた感覚に殉じた一句。試験の答案としては零点だろうけれど、人は理詰めでは生きていないのだから、こういう読み方があってもいいのかなと、おっかなびっくりの鑑賞でした。『鷲の巣』(1975)所収。(清水哲男)




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