January 0512000

 ひとびとよ池の氷の上に石

                           池田澄子

の水が凍っている。そこまでは何ごとの不思議なけれど、張った氷の上に石があるとなれば、不思議な驚きの世界となる。いずれ誰かが置いたものか、何かの加減で転がり落ちてきたものではあるだろう。だが、こんな光景に出くわしても、多くの人は不思議とも思わないに違いない。立ち止まることはおろか、感覚に不思議が反応しないので、何も気に止めずに通過してしまうだけである。そこでむしろその不思議さに作者は注目し、「ひとびとよ」と呼びかけてみたくなったのだ。実際、私たちが失って久しい感覚の一つは、物事に素直に驚くそれではなかろうか。少々のことでは驚かなくなっており、その「少々」の幅も拡大する一方だ。おそらくは、バーチャルな不思議世界に慣れ過ぎてしまった結果の「鈍感」なのだろう。でも、バーチャルな世界では、本当に不思議なことは何一つ起こらないのだ。そのことを踏まえて句を読み返すと、作者の目が新鮮な驚きに輝いていることがわかる。思わずも「ひとびとよ」と呼びかけたくなった気持ちも……。呼びかけられた一人としては、謙虚に自省せざるをえない。俳誌「花組」(2000年・冬号)所載。(清水哲男)




『旅』や『風』などのキーワードからも検索できます