December 11121999

 海苔買ふや年内二十日あますのみ

                           田中午次郎

語は「年内(年の内)」。世の歳時記には「余す日も少なくなった年内。『年の暮』とほぼ同義だが、多少それよりゆとりを持つ感じ」と定義してある。では、いったい十二月の何日ごろから使ってもよい季語なのかと思っていたら、掲句を発見した。なるほど「年の暮」よりは、気持ち的にやや余裕のある今ごろの季語というわけか……。美味しそうな海苔を見かけた。少し早いかな。そう思いながら、作者は正月用にと買っておくことにした。でも、数えてみれば、今日から二十日経つと年が改まるという計算になる。となれば、別にそんなに早い「年用意」でもないなと、自分で自分を納得させているような句だ。「あますのみ」の「のみ」に、作者の海苔を買った言い分がある。で、海苔の袋を提げて往来に出てみると、正月はまだまだ先だというような顔をして、普段と同じような足取りで多くの人が歩いている。「あますのみ」の「のみ」を「のみ」と思わない人も、大勢いるということ。作者はそこまで言ってはいないのだが、こんなふうに読まないと、この句の面白さは引き出せないような気がする。しかし、あと一週間もすれば、世の中全体が「あますのみ」と言い募ることだろう。もちろん、私も。(清水哲男)




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