December 08121999

 焼鳥焼酎露西亜文学に育まる

                           瀧 春一

しくとも楽しかった青春回顧の一句である。この育(はぐく)まれ方は、しかし作者に固有のそれではない。安酒場で焼酎をあおり、熱っぽくドストエフスキーなどを語り合う。戦後まもなくの大学生たちの生活の一齣(こま)だ。焼鳥と焼酎と露西亜文学は、彼らの青春のいわば三点セットなのであった。だから、このように句にしても、違和感なく受け止めてくれる土壌はあるというわけだ。世代的には、昭和一桁生まれの人たち。昭和二桁初期の私は、わずかながら雰囲気だけは嗅いだことがある。私の頃には露西亜文学が後退しはじめており、カミュやらサルトルやらと仏蘭西文学に注目が集まりかけていた。いずれにしても、文学から生きる意味を学ぼうとする時代があったということだ。いまや、酒場や喫茶店で文学を語る若者など皆無に近い。フランスでもサルトルなどは読まれなくなったそうだが、人生における文学の価値は確実に下落したということだろう。本ばかり読んで、あまりにブッキッシュに物事を捉えるのも考えものではあるが、せっかくの文学者の労作を知らないまま死んでしまうのも寂しすぎる。現代の青春に三点セットがあるとすれば、それは何であろうか。(清水哲男)




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