December 04121999

 暗さもジャズも映画によく似ショールとる

                           星野立子

前の句。作者が入ったのは、クラシック・スタイルのバーだろう。ほの暗い店内には静かにジャズが流れており、心地よい暖かさだ。大人の店という雰囲気。まるで映画の一場面に参加しているような気分で、作者はショールをとるのである。その手つきも、いささか芝居がかっていたと思われるが、そこがまた楽しいのだ。ショールというのだから、もちろん和装である。和装の麗人と洋装の紳士との粋な会話が、これからはじまるのだ。こうした店には、腹に溜まるような食べ物はない。間違っても、焼きおにぎりやスパゲッティなんぞは出てこない。あくまでも、静かに酒と会話を楽しむ場所なのである。いつの頃からか、このような店は探すのに苦労するほど減ってしまった。あることはあるけれど、めちゃくちゃに高いのが難である。強いて言うならば、現在の高級ホテルのバーと似ていなくもない。が、やはり違う。ホテルの店では、バーテンダーのハートが伝わってこないからだ。その意味からしても、最近の夜の遊び場はずいぶんと子供っぽくなってきている。だから、社会全体も幼稚で大人になれないのだ。遊び場は重要だ。遊び場もまた、人を育て社会を育てる。『続立子句集第二』(1947)所収。(清水哲男)




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