November 24111999

 血を売って愉快な青年たちの冬

                           鈴木六林男

までは無くなったが、エイズ問題が起こる前まで、売血という仕組みがあった。血液バンクというものがあり、そこに行けばすぐ自分の血が金になるのである。これはある種の人たちにとっては恰好のアルバイトであり、最後の生活手段でもあった。この句を読むと、そうした昭和三十年代頃の東京の貧しさや、夢と希望(のようなもの)があった私の青春時代を思い出す。私は血を売ったことはなかったけれど、私の周辺にも万引きと売血で生きている若者が何人もいた。青春は暗く貧しい。だが、絶対的といえるほど愉快でもある。この句はそうした青春を振り返り、その時代の気分だけを抽出して、現在に生き生きと蘇らせている。それにしても、このような句を、七十代の作者が新作として作っているのですぞ。「俳句朝日」(1999年12月号・特集「この一年の成果」)所載。(井川博年)




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