November 19111999

 芒野やモデルハウスに猫の声

                           守屋明俊

を探していたころ、よくモデルハウスを見に出かけた。新聞広告などをたよりに行ってみると、句のようにまことに殺風景な場所に建っている。にわかづくりの芝居小屋か映画のセットのようだ。一歩なかに入ると、ピカピカの流し台やら豪華な応接セットやらがしつらえられていて、いったい何様のお住まいかと思ったものだ。安い買い物ではないので、もちろん慎重にあちこちを見る。豪華な応接セットの代わりに、我が家の貧弱なそれを置いてみたとイメージしてみたりもした。しかし、なかなか決断するにはいたらない。何箇所かを見て回っているうちに気がついたことだが、モデルルームが決め手に欠けるのは、そこに人の住んでいる気配がないことだった。当たり前だけれど、生き物の気配のない住居は、いくら住居らしくデザインされていても空虚なものだ。おそらく作者も、そんな気がしていたのだろう。が、そこにどこからか小さく猫の鳴き声が聞こえてきた。なんだかホッとしたような気持ち……。現代的な生活者の感覚を、さりげないが鋭くとらえた佳句と言えよう。ただし、この句。作者が外にいて、中から猫の声がしたとも受け取れる。それなりに面白いが、モデルルームに猫が入り込むのは無理だろう。「俳句界」(1998年12月号)所載。(清水哲男)




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