November 18111999

 焼芋の固きをつつく火箸かな

                           室生犀星

芋といっても、いろいろな焼き方がある。焚き火で焼いたり、網やフライパンで焼いたり、石焼芋もあるし、近年では電子レンジでチンしたりもする。もっとも、電子レンジで調理する場合は「焼く」という言葉は不適当だ。といって「蒸かす」も適当でないし、やはり「チンする」とでも言うしかないか(笑)。句の場合は、囲炉裏で焼いている。犀星の時代にはごく普通の焼き方であり、焼け具合を見るために、火箸でつついている図だ。短気だったのだろう。焼けるのが待ち切れなくて「固きをつつ」いているわけだが、一人で焼いているのならばともかく、こうした振る舞いは周囲の人に嫌われたと思う。芋だけではなく、ついでに囲炉裏の火までつつきまわす人もおり、貧乏性の烙印を捺されたりもした。もちろん犀星は自分の行為に風流を感じて作ったのだろうが、あまり褒められた姿ではない。……と、百姓の子としては言っておきたくなる。囲炉裏での火箸の扱いは、ゆったりとした心持ちのなかで、はじめて(風流)味が出てくる。犀星は百姓のプロじゃなかったから仕方がないけれど、火箸の上げ下ろしは、あれでなかなか難しいのである。そう簡単に、カッコよくはできないものなのだ。(清水哲男)




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