November 17111999

 寒夜哉煮売の鍋の火のきほひ

                           含 粘

い出しては、柴田宵曲の『古句を観る』(岩波文庫・緑106-1)を拾い読みする。元禄期の無名作家の俳句ばかりを集めて解説した本だ。解説も面白いが、当時の風俗を知る上でも貴重な一本である。この句は、秋の部の最後に紹介されている。「煮売」は、魚や野菜を煮ながら売る商売で、作者は煮られているものよりも、煮ている火の勢いに見入っている。薪の炎だろう。寒い夜の人の心の動きが、よくつかまえられている。電灯などない時代だから、よけいに炎の色は鮮やかだったろうが、現代人にも通じる世界だ。宵曲は上五字の「寒夜哉」に注目して、こう書いている。「『寒夜哉』という風な言葉を上五字に置く句法は、俳句において非常に珍しいというほどでもないが、下五字に置いたのよりは遥に例が少い。それだけ用いにくいということにもなるが、詠歎的な気持は下五字を『かな』で結ぶよりも強く現れるような気がする。この句は『火のきほひ』の一語によって、上の『寒夜哉』を引締めているようである」。そこで私は、いろいろと「寒夜哉」の位置を替えて遊んでみた。やっぱり、上五字にもってくるのが、いちばん納まりがよいようである。(清水哲男)




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