November 10111999

 七十や釣瓶落しの離婚沙汰

                           文挟夫佐恵

齢者の離婚が増えてきたという。定年退職したとたんに、妻から言い出されて困惑する夫。そんな話が、雑誌などに出ている。誰にとってもまったくの他人事ではないけれど、句の場合は他人事だろう。ちょっと突き放した詠みぶりから、そのことがうかがえる。身近な友人知己に起きた話だろうか。若いカップルとは違って、高齢者の離婚は精神的なもつれの度合いが希薄だから、話は早い。井戸のなかにまっすぐ落下してゆく釣瓶のように、あっという間に離婚が成立してしまう。作者は、半ば呆れ半ば感心しながら、自身の七十歳という年令をあらためて感じているのだ。そういえば、事は「離婚沙汰」に限らず、年輪が事態を簡単に解決してしまう可能性の高さに驚いてもおり、他方では淋しくも思っている。最近必要があって、老人向けに書かれた本をまとめて読んだ。五十代くらいの著者だと、こうした心境にはとうてい思いがいたらないわけで、趣味を持てだの友人を作れだのという提言も、空しくも馬鹿げた物言いにしか写らなかった。なお、作者名は「ふばさみ・ふさえ」と読む。『時の彼方』(1997)所収。(清水哲男)




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