November 09111999

 推理小説りんごの芯に行き当たる

                           小枝恵美子

理小説は「行き当たる」楽しさを求めて読む読み物だ。複雑に設定された謎を、作家に導かれながら解いていく楽しみは、夜長の季節にこそふさわしい。句の作者は、林檎を齧りながら、そんな本のページに心を奪われている。夢中になって読みふけっているうちに、あろうことかガリッと「行き当たった」のは、作中の犯人にではなく、林檎の芯だったという苦い可笑しさ。いや、酸っぱい可笑しさ。びっくりして、思わず手にした林檎の様子を見つめている作者の顔が見えるようである。伝統的な「花鳥諷詠」とは懸け離れた次元で、俳句はかくのごとくに現代生活の機微を表現できるという見本にしたいような作品だ。作者は俳誌「船団」(大阪)のメンバーで、他にも「ケンタッキーのおじさんのような菊花展」「りんご剥くクレヨンしんちゃん舌を出す」などの愉快な句がある。俳句をはじめてまだ六年だそうだが、この自由闊達な詠みぶりからして、今後のそれこそ「行き当たる」ところの愉しみな人だ。『ポケット』(1999)所収。(清水哲男)




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