November 08111999

 山の子が独楽をつくるよ冬が来る

                           橋本多佳子

楽は新年の季語だが、ここでは「冬が来る」のだから「立冬」に分類する。文字どおりの「山の子」であった私には、思い当たる句だ。山国への寒さの訪れは早い。いかな「山の子」でも、この季節になると山野を駆けめぐるなどの遊びはしなくなる。遊び場を、室内に切り替えるのだ。女の子はお手玉遊びをやっていたようだが、男の子は独楽回しに熱中した。農家には土間がある。そこで回す。村の万屋(よろずや)には出来合いの独楽も売ってはいたけれど、誰も買わなかった。もっと安い鉄の心棒と輪だけのセットを買ってきて、本体は小刀で丹念に木を削って作った。仕上げるのには、何日もかかった。ただし、作者が見たのはもっと素朴な独楽づくりの様子だったのかもしれない。木の実に爪楊枝のような細い木をさすものとか、丸い厚紙にマッチ棒の心棒をさすだけのものとか……。そういうものも作ったが、やはり鉄の心棒と輪とで作った独楽は頑丈だったし、互いにはねとばしあう遊びもできたので、なんだか知らないが「ホンカクテキ」だと思っていた。おかげで、いまでも独楽はちゃんと回せる。もはや、淋しい技術に成り果ててはいるけれど。(清水哲男)




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