November 06111999

 竜胆の花暗きまで濃かりけり

                           殿村菟絲子

胆(りんどう)は、根を噛むと非常に苦いので、竜の肝のようだということから命名されたようだ。日のあたるときにだけ開き、雨天のときや夜間は閉じてしまう。句は、閉じてもなお自分の色を失わぬ竜胆の花に、気丈な性質を見てとっているのだろう。もちろん、同時に花色の鮮やかさを賞賛している。この花はちょっと見には可憐だが、なかなかどうして、茎といい葉といい花といい、芯の強い印象は相当なものである。私はいつも、気の強い女性を連想させられてしまう。『枕草子』にも、こうある。「龍膽は、枝ざしなどもむつかしけれど、こと花どものみな霜枯れたるに、いとはなやかなる色あひにてさし出でたる、いとをかし」。繁殖させようとすると意のままにならないが、自然体だと寒くなっても凛として美々しく咲いていると言うのである。清少納言と私の感受性はよく食い違うけれど、こと竜胆に関しては一致した。いまどきの花屋の店先には、初秋を待たずに切花として登場してくるが、あの色はいけない。野生の花にくらべると、深みがない。竜胆もまた、やはり野においておくべき草花である。(清水哲男)




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