November 04111999

 秋のくれ大政通るその肩幅

                           入江亮太郎

書に「文久生れの祖母云、大政さんといふ人はなう肩はばの広い人でなう」とある。「大政(おおまさ)さん」とは実在の人物。清水次郎長一家二十八人衆のうちの一の子分で、怪力無双の槍の使い手であった。広沢虎造の浪曲に「清水港は鬼より恐い、大政小政の声がする」とうたわれている。昔の駿河の人はみな、次郎長はもとより主だった子分にいたるまでを、彼女のように必ず「さん」づけで呼んでいたという。決して、呼び捨てにはしなかった。人気のほどがうかがえるが、それも単なる博打うちを脱した次郎長晩年の社会的功績によるものだろう。清水姓の私は、子供の頃から次郎長一家が好きだった。といっても浪曲や映画の世界のなかでの贔屓であるが、森の石松が都鳥三兄弟に騙し討ちにされるシーンなど、涙無しには見ていられなかった。だから、作者のおばあさんのように実際の大政を見たことがあるというだけで、その人を尊敬してしまう。そうか、肩幅の広い人だったのか。でも、背は高くなかったろうな。高ければ、彼女はまずそのことを言ったはずだから……。句はそっちのけで、そんな大政の姿を想像してしまった。大政の墓は清水市の梅蔭寺(ばいいんじ)にあり、親分の次郎長を守るようにして小政らと眠っている。『入江亮太郎・小裕句集』(1997)所収。(清水哲男)




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